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今度は、偶然じゃない。
一週間前、この木製のドアを開けたのは通りがかりで、今日は必然。
どれほどか、胸を占めるあの一瞬の横顔に焦がれて、焦がれて。
気付けばあの夜、予想した通りに、あたしは店への道を辿っていた。
「いらっしゃいませ」
いくつかの声に迎えられ、カウンターに視線をやればそれは、あの日とほとんど変わらない、情景。
数人の女性は顔ぶれこそ違うけれど、やはりあの彼を囲んで笑っている。
気にしない素振りで彼等の前を過ぎる僅かに、チラリと視線を上げた彼が微笑んだ。
どくりと、血が騒ぐ、笑み。
何気ないフリで行くのが精一杯で、自分がどんな顔をしてるかなんて、わかりもしなかった。
ただ、平静を装った…つもりではいる。動揺は表していなかったと信じたい。
そうして、以前に座った奥のスツールまで進むと、全く同じに老バーテンダーが問うのだ。
「ご注文は?」
幾何学模様と店名が、鮮やかに印刷されたコースターに視線を奪われながら、返答もあの日と変わらず。
「…お任せで」
「お待たせ致しました」
ことりと置かれたカクテルグラスには、くすんだオレンジの液体が満たされて、僅かな間接照明に映える。
知らないカクテルだ。見たことがない、でも、おいしそう。
「これは?」
掲げたグラス越しに問うと彼は僅かに口角を上げて「ソウル・キスです」と。
「どなたか、思っている方がおいでで?何故か、あなたのお顔にそんなことを思ったものですから」
やはり客商売、侮れないわね。
応えることなく微笑んで、冷えたグラスに唇を寄せると、魂を一口啜り込む。
微かに流れる低い声だけが、この場を共有している証拠。
ここから動けないあたしは、あなたに決してとどかない。
でも、いいのよ。それでね。
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